新型コロナウイルス対策耳鼻咽喉科診療ガイドライン
             (2020年3月30日第1版発行) 

誰もが新型コロナウイルスを保有している可能性があることを考慮して、全
ての患者の診療において、標準予防策であるサージカルマスクの着用、手指衛生
を徹底する。 

【医療者の意識】
1. 自分の感染を防ぐ
2. 自院をクラスターにしない

【新型コロナウイルスから防御する対象】
1. 診療医師
2. 院内スタッフ
3. 以前から当該医院に通院している患者
4. 新たな新患を含め全ての患者

【開業している地域の新型コロナウイルス患者の状況】
1. 新型コロナウイルス感染者はほとんどいない
2. 新型コロナウイルス感染者はいるかもしれないが、ほとんど流行していない
3. 近隣の住民に少しは新型コロナウイルス感染者がいる
4. 近隣に多数の新型コロナウイルス感染者がいる

【新型コロナウイルスの生存期間】
1.プラスチック      3日間
2.ステンレス       2日間
3.段ボール       24時間
4.銅           4時間
5.エアロゾル(空気中)  3時間

【問診チェック項目】
1. 新型コロナウイルス感染者との接触の有無
2. 渡航歴
3. 発熱
4. 咳
5. 倦怠感
6. 嗅覚障害(続けて味覚障害がおこることもある)

【感染防御】
≪一般耳鼻咽喉科診察におけるPPE(個人用保護具)≫
1. サージカルマスクあるいはN95マスク 注:問診のみであればサージカルマスクで良いが、エアロゾルを発生させる可能性のある医療行為を行う場合はN95マスクが必要
2. 眼の保護具(ゴーグルあるいはフルフェイスバイザー) 注:問診のみであれば必要ないが、鼻・喉頭ファイバー、鼻処置、吸引などしゃみや咳を誘発し、飛沫ないしはエアロゾルを発生させる可能性のある行為を行う場合は必要
3. 使い捨て手袋 注:体液、血液、分泌物,汚染物に触れる可能性がある場合
4. ガウン 注:体液,血液,分泌物,排泄物などで衣服が汚染される可能性がある場合
5. キャップ 注:体液,血液,分泌物などで頭髪が汚染される可能性がある場合

≪耳鼻咽喉科処置・検査≫
1. 前鼻鏡検査
2. 口腔検査
3. 鼻咽頭吸引
4. ネブライザー療法
5. 軟性鼻咽腔・喉頭ファイバー検査
6. 硬性内視鏡検査

注:上記1~6は、くしゃみや咳反射を誘発し飛沫やエアロゾルを発生させる可能性がある。 注:ネブライザー療法は、感染者の鼻咽腔に存在するウイルスのエアロゾル飛沫を空気中に散布させる可能性がある。

≪耳鼻咽喉科処置実施に際して≫

『標準的な感染予防対策』 *来院患者に対して、可能な限り石鹸を使った手洗いあるいはアルコールでの手指消毒を勧める。
*医療者がマスク着用と確実な手洗いあるいはアルコールでの手指消毒を行う。
注:消毒用アルコールの不足が懸念されるが、患者診察毎の手洗いはアルコー ル     による手指消毒にまさると言われている。

『消毒用製剤』
1. 消毒用アルコール(エタノール)
2.次亜塩素酸ナトリウム
3.微酸性次亜塩素酸水
4.塩化ベンザルコニウム
5.逆性石鹸

『診察環境における消毒すべき部位』
1.ユニット上部表面および内部
 2.患者用診察椅子
3.ドアノブなど患者さんがよく触るもの
4.聴力検査室ドア・検査ボタン・ヘッドホン
 5.赤外線眼振検査ゴーグル・フレンツェル眼鏡
 6.額帯鏡、ヘッドライト
7.カルテ筆記用具、電子カルテキーボード、ペンタブレットなど

『鼻咽腔・喉頭ファイバー検査を行うに当たって』
*検査中のくしゃみや咳による感染の可能性を減らすために
1.使い捨て手袋、ガウン、マスク(通常のサージカルマスクでは、コロナウイル ス に対する防御に限度はあるが)、ゴーグル・フルフェイスバイザー(眼はウイル ス 粒子の重要な入り口である)、髪の保護具を着用する。
2.局所うっ血除去薬や局所麻酔薬を使用するか検査を回避するかを検討する。必 要 に応じて、スプレーではなく薬液に浸した綿球あるいは綿棒を使用する。
3.内視鏡検査は、接眼レンズを使用するのではなく、ビデオモニタリングによって 実行する必要がある。

無症状コロナウイルス保有者の感染力が不明である現在、どの程度の防護体制 をとるのか、以上のチェックポイントを踏まえた上で、自らの診療体制を決定 して下さい。

兵庫県耳鼻咽喉科医会 耳鼻咽喉科外来診療ガイドライン作成班

 

           嗅覚・味覚障害診療ガイドライン
            (2020年4月4日第1版発行)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において、最も一般的な耳鼻咽喉科的症状は、
顔面の痛みと鼻閉とされていましたが、急性の嗅覚・味覚障害も呈すことが報告されました。
Jerome RL.らは、COVID-19患者の85.6%と88.0%とに、それぞれ嗅覚と味覚障害が生じ、
また11.8%の症例では、他の症状が発現する前に嗅覚障害が生じた報告しています1)。
以上を踏まえると、嗅覚・味覚障害を主訴に患者さんが来院した場合、新型コロナウイルス
に感染している可能性があると考え対応する必要があります。日本耳鼻咽喉科学会の耳鼻咽
喉科診療における新型コロナウイルス感染の対応ガイド(2020 年 3 月 30 日改訂、第二版)
も考慮し、以下のような対応が適切であると考えられます。

1)嗅覚・味覚障害を主訴に直接来院された場合
・他に症状がない場合は、一般的な耳鼻咽喉科診察に留め、内視鏡や X 線などの検査や
 処置は行わず、自宅療養時の留意点2)を説明した上で、 2週間の自宅待機を指示する。
・自宅療養開始後、4日以上続く発熱、強い全身倦怠感、呼吸苦があれば最寄りの
「新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター」 に相談するように話す。
・上記㈪の状態に到らず、2週間以上嗅覚や味覚の異常が継続する場合は耳鼻咽喉科へ
 再度受診するように説明する。
・初回受診時には、ステロイドや NSAIDs は処方しない

2)電話にて嗅覚・味覚障害の相談を受けた場合
コロナウイルスに感染している可能性があることを告げ、医療機関は受診せず2 週間は可能
な限り外出を控えて自己隔離し、その間もし4日以上続く発熱、強い全身倦怠感、呼吸苦が
あれば最寄りの「新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター」 に相談する
ように指示する。2週間経過して、嗅覚・味覚障害が続くものの4日以上続く発熱、強い全身倦怠感、呼吸苦などが出現しなければ、来院するように説明する。

文献および資料:
・https://www.entnet.org/sites/default/files/uploads/lechien_et_al._-_covid19_-_eur_arch_otorhinolaryngol_.pdf

            兵庫県耳鼻咽喉科医会 耳鼻咽喉科外来診療ガイドライン作成班

          新型コロナウイルスに対する外科的手技ガイドライン
              (2020年4月4日第1版発行)

「中国において、単一の内視鏡下下垂体手術によって、その時に手術室にいた14人が感染した
かもしれない」という事例報告がありました。また中国武漢の脳神経外科医は「中国で亡く
なった医師のかなりの数は耳鼻咽喉科医と眼科医であり、おそらく鼻腔からのウイルス排出が
高いためであろう」と警告しています1)。
実際、鼻腔からの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)排出率は、気管支肺胞洗浄液の93%、
痰の72%に次いで63%と高く、頻度は低いものの1%の症例で血液中からもSARS-CoV-2が検出されたとの報告もあります2)。鼻腔粘膜あるいは血液に存在するウイルスが、内視鏡の出し
入れや鼻腔の操作に伴って飛沫となり周囲に拡散、術者のみならず同室内の看護師らにも感染
が生じることは想像に難くありません。これらのことを踏まえて、我々耳鼻科医は外科的手技
を行うべきか否か検討する必要があると考えられます。

・内視鏡下鼻・副鼻腔手術
上記の武漢における同室内14名の感染報告を受けて、待機的手術は原則延期としている大学
病院・民間医療機関も出てきています。鼻科手術の多くは急いで行う必要はなく、また術後も
エアロゾル発生手技である丁寧な鼻処置を必要とする場合が多く、医療者のリスクは高いと
思われます。従って、基本的には延期する方が望ましく、担当医が感染拡大のリスクと患者
さんのメリットを天秤にかけて、実施するか延期するかを慎重に判断する必要があると考え
られます。もし手術が必要であればPCR検査を最低2回は施行し、陰性を確認した上で行う
ことが望ましいのですが、現状では不可能です。感染の有無が不明のまま手術を行うのであれば、執刀する医師のみならず、同室にいる医療スタッフ全員が、N95マスク、保護めがね、ガウン、手袋など最高レベルの個人防護体制をとって手術に臨む必要があります1)。

・鼻腔粘膜焼灼術
アレルギー性鼻炎に対して行う場合、緊急性があるものは少なく、実施に際しては慎重に
判断する必要があります。鼻出血に対して行う場合も、以下の様な保存的治療をまず行うこと
が望ましいと考えられます。

・鼻出血に対する治療
刺激の少ない対処法を選択することが重要です。治療を行う場合は、最高レベルの個人防護具を用い、すべての患者に対しCOVID-19が陽性であるかのように対応する必要があります4)。

・鼻内異物摘出術
緊急を要するものはボタン電池のみです。処置中にくしゃみ反射を誘発する可能性があり、最高
レベルの個人防護具を装着する必要があります。

・鼓膜切開など
耳科的治療は、鼻咽腔ほど厳重な個人防護具の必要性はありません。しかし、患者に近接して処置を行うことと、外耳道刺激により咳反射を誘発する事があり、エアロゾルの発生に注意が必要です5)。

出典:
1)ENTtoday、March 20, 2020、Otolaryngologists May Contract COVID-19 During Surgery
2)Wang W, Xu Y, Gao R, et al. Detection of SARS-CoV-2 in Different Types of Clinical Specimens. JAMA. 2020 Mar 11. doi: 10.1001/jama.2020.3786.
3)https://patents.google.com/patent/JP2008540434A/ja
4)https://www.entuk.org/sites/default/files/files/COVID%2019%20Epistaxis%20Management.pdf
5)https://www.entuk.org/sites/default/files/files/Aerosol-generating%20procedures%20in%20ENT_compressed.pdf

兵庫県耳鼻咽喉科医会耳鼻咽喉科外来診療ガイドライン作成班